続・竹林の愚人 シベリア鉄道紀行史

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シベリア鉄道紀行史


シベリア鉄道紀行史: アジアとヨーロッパを結ぶ旅 (筑摩選書)シベリア鉄道紀行史: アジアとヨーロッパを結ぶ旅 (筑摩選書)
(2013/01/15)
和田 博文

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シベリア鉄道に対する日本人の関心には、もともと二面性がある。
一つはヨーロッパとアジアを結ぶ鉄道への夢である。
それは日本からロンドン・ベルリン・パリへ短期間で旅をする夢であり、物流によって経済が活性化する夢である。
もう一つはヨーロッパからアジアに、軍隊が送り込まれてくるという恐怖だった。
ロシアは軍隊・軍用品を速やかに輸送するために、バイカル湖の航路を使わなくても済む。
一方ではシベリア鉄道全通に寄せる期待や世界一周の夢が広がり、他方では日清戦争・日露戦争・第一次世界大戦・ロシア内戦という動乱が起きる。

松浦充実『巳成西比利亜鉄道』(1897年1月・民友社)の序文で、稲垣満次郎は「露国は何為而西比利亜鉄道を創設せんと欲する乎、之を害用して東洋の均勢を撹破し、隣国を侵略し以て唯其人欲の私を檀にせんと欲る乎」と問いかけた。
松浦自身は、シベリア鉄道建設の目的が、「文明平和を増進する」ことにあると主張するが、三国干渉や日露戦争を経て、この問いは強い疑念として、日本近代に底流していくことになる。
1926年にシベリア鉄道で極東に向かった加藤完治は、「国境に近づくに従って其の停車場を次第に宏壮雄大に建築し、活動的の都市を堂々と建設して東へ東へと進みゆく」スラヴ民族を見て、「異様の感」に打たれたと、『訪欧所感第二次』(1942年3月・地人書館)に記している。
極東に不凍港を獲得しょうとする努力は、帝政の時代もソ連の時代も変わらない「不動の国是」であると、加藤の眼には映っていた。
また1929年にウラジオストクからシベリア鉄道に乗車した永田秀次郎は、「ウラジオストク」(東方を征服せよ)という都市名から、恐怖心と反感が湧いてきたと、『高所より観る』(1930年6月・実業之日本社)に書いている。
社会主義国になっても「帝国主義侵略主義的」な都市名を改めないことを、永田は疑問に感じていた。
ロシアに対する恐怖心は、革命後のソ連に対する恐怖心や反感につながっていく。
1920年代後半から1930年代初頭の日本は、プロレタリア運動が盛んで、ソ連を信奉する者は少なくない。
しかし恐怖心や反感を抱く人も多かった。

シベリア鉄道紀行文の黄金期に引き継がれたもう一つの遺伝子は、ロシア文学に対すを畏敬の気持ちである。
1931年にヨーロッパに向かう小説家の林芙美子は、「チエホフの小説に出て来る、平凡な各階級の人物は、さう今も昔も変りはないだらう」と、『三等旅行記』(1933年5月・改造社)に記している。
モスクワやレニングラード(旧ペテルブルグ、ベトログラード)は、広大なロシアのヨーロッパ側に位置する。
帝政の時代もソ連の時代も、そこには権力の中枢があり、文化の中心があった。
モスクワやレニングラードから見れば、ウラル山沢以東のシベリアは、広漠とし水辺境にすぎない。
しかしその辺境にこそ、ロシアの本質があるという文学的な見方も存在する。
宗教家の暁烏敏に『地球をめぐりて』(1930年1月、香草舎)という歌集がある。
 「行けど行けど青原ばかり七日あまり汽車の走れど青原ばかり」
 「汽車の窓にいろいろの百合の花たば針すらぶ娘の売りに来るかな」
シベリアには「青原」しかなく、「すらぶ娘」は貧しい。
しかしパリやロンドンまで足を延ばした林芙美子が、一番好きだと感じたのは、ロシアの田舎であり、ロシアの人々だった。
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